先日2021年11月19日(金)に、小浜市が主催のシンポジウムを聴講してきた。弊社が拠点としている小浜市は20年前に、全国でも最初に食のまちづくり条例を定め、食のまちづくりを進めていている町。
シンポジウムは「食のまちづくり条例」制定20周年記念として、さらに小浜市市制施行70周年事業の一環で、『食文化による郷土づくりカンファレンス~「食のまちづくり」を考えるシンポジウム~』として開催されたものだ。
弊社も事業の一環として取り組んでいる食のセレクトショップTEtoKIを通じて実現したいことや、取り組んでいきたいことの参考になればと思い、聴講してきました。3部構成で進められたシンポジウムを聞いて、そこでのお話や気づきなど簡単にではありますがお伝えさせていただければと思う。
わたしにとっての食文化
1部は、文化人類学者であり小浜の食文化館の名誉館長である石毛直道氏、伝承料理研究家で小浜市料理顧問の奥村彪生(おくむらあやお)氏、元福井テレビアナウンサーで現在はフリーのアナウンサー福田布貴子氏の3名で「わたしにとっての食文化」というテーマで鼎談が行われた。
登壇された3名は「御食国大使」という肩書もあり、これは小浜が御食国であるということなどを発信することに協力していただく方が任命されているようです。3部のパネルディスカッションには高校生で御食国大使に任命されている地元高校生3人も登壇していた。
(現在、御食国大使は100名近く?いらっしゃるらしい。この仕組みも特徴的で、もっと積極的に展開して、任命する人増やしちゃえばよいのにと勝手ながらに思ってる。大使のブランド価値?方向性?によるとは思うが、情報発信の効果やその広がり方、取り組み内容、成果指標など設定してみて、個人的には「みんなが大使」みたいになったら、もっと御食国大使という取り組みを広く展開していったら面白いのになぁと。)
まず、自己紹介として、世界100か国以上の食文化に触れてきた石毛さんは、地元の人が普段食べているものを対象とした研究で、その調査スタイルとして、現地で親しくなった人の家に居候をして、寝食を共にする。下宿とは違い、一緒に朝ごはんを食べて、野良仕事を手伝って、同じ生活リズムを過ごすことで普段の生活が良くわかる。とおっしゃっていた。その中でこんなことをご発言された。
本を読んで調べるだけではなく、自分で口にして体験することが一番大切!
石毛直道氏
TEtoKIでも食に関する本を販売しているが、レシピ本はあまり置いていなくて、どちらかというと概念的な本やエッセイなど読み物の割合が多い。レシピ本も、もう少し増やしてよいかもとは思っているが、いろいろな概念や基本的なこと、いろいろなジャンルのことを知っていくのには本がとっても役に立つ。少しずつだが、本の(食に関する)ジャンルをもっと増やしていきたいとも思っている。家の本棚や適当にでも家の中に食の本が置いてあって、暮らしの中でふと食の本を愉しむ。(みんな忙しくてそんな余裕なかなか取れない人も多いのかもしれないけど)そんな人が増えると素敵なんじゃないかと思うんです。
で、本も大切にしたいし、実際食べてもらうことも大切だし、そこはシェアキッチンをもっと活用していかないとなぁと思う。飲食営業だけでなく、グループ活用なんかもできることを宣伝していかないと!と思っている。
ちなみに、TEtoKIでも、石毛さんや奥村さんの執筆された本を数点販売しています(市立図書館でも借りれたはず)。ぜひ、お近くの方はお越し頂ければ嬉しいです。
奥村さんは「日本食」について語ってくれた。欧米と比べて、料理をしない料理の文化であり、素材そのものを食べる文化であり、外のものを日本流に仕立て直して育ってきた文化であるということ。日本食の地方差が生み出された背景には、藩や大名統治、参勤交代による交流、身分による作法の違いなどが影響しているということを教えてくれた。
食を愉しむ
これからの食文化について、お二人からとても重要な発言がされた。都心部や共働き家庭では、家でご飯をつくる機会をつくるのは難しく、外食・中食が増えていく傾向は強いが、石毛さんは
手作りのおいしさや「作る喜び」を感じることも大切である。
石毛直道氏
男性も料理を楽しんでほしい!
料理の本を読んでそのまま作るだけでなく、工夫をする。失敗しても残らないし、日常の中で「創造の楽しみ」を味わえるのも料理の良いところ!
とおっしゃられ、どういった形で、いつ、どこで実現するかはこれから考えるとして、男の人が料理を愉しむ機会も作っていけると良いなぁと思った。TEtoKIのコンセプトは「食と暮らしを愉しむ」。今よりも、もっといろいろな活動の展開が必要だ。(後段で話された小浜市の生涯食育を刺さる食生活改善推進員連絡協議会・グループマーメイド(以後、食改)さんが様々な取り組みをされていて、男性向けの料理教室もたまに?開催されているようです。素晴らしい。)
健全な農林水産業の発展を!
続いて、奥村さんから、日本の出汁文化を大切にすること。伝統を守るだけでなく、時代性を反映していくことも大切で、これまでも日本食はそうしてきている。さらに、
食文化の基本は食材!健全な食材、健全な農林水産業が重要となる!
奥村彪生氏
とおっしゃられていた。まさに!と、今年クローバー農園の小山さんと一緒にワークショップをして、有機農業のことや農的な取り組みを進めていきたいと思っている中で背中を押してもらえた気分になった。
また、奥村さんからは、これからの食文化館のあり方や担うべき機能についてもご提言があったり、食のまちづくりから健康のまちづくりにつなげていってほしいこと、食生活自体を楽しむことが大切であるとのお言葉がいただけた。
味覚を育てる
最後に会場からの質問ということで、立命館大学の先生から会場に参加している若者に向けてメッセージをいただきたいということで、お二人からのお言葉はそろって味覚のことだった。石毛さんは、
若い頃に舌のトレーニングをしておいた方が良い。高級なものを食べるということではなく、普段食べているもの中で美味しいものを味わい、それはどう作るのかを考えてみる。味わいを楽しみ、一生を通じて食を楽しんでほしい。
石毛直道氏
奥村さんからは、6~10歳の間に味覚が決まるといわれること、米を食べることが舌を敏感(繊細?)にしていることや、
日本の味や香りの幅広さを味わいながら味覚を育ててほしい。
奥村彪生氏
というメッセージをいただいた。
進行してくれていた福田さんからも、家族が作ってくれる料理の味を大切に味わってほしい。それはかけがえのないもの。というメッセージで充実の鼎談は終わった。
食の戦略が必要なのではないか
石毛さんと奥村さんの話はここで紹介している以外にも覚えておきたい話が多く、小浜市民のみんなにも食に携わる人にも聞いてもらいたい内容だったなぁ。公式に記録が公開されればよいのになぁと思う。
話を聞き終わって思ったのは、聞いた話をどう生かしていけるか。お店を通じてできることをやっていきたいなぁということと、この話を受けて市としてのアクションが楽しみだなということ。
サプライチェーン全体で取り組むとされているEUの「Farm to fork戦略」や農林水産省の「みどりの食料システム戦略」なども参考にして、小浜市の(欲を言えば、近隣市町を巻き込んだ)食の戦略を、「食のまちづくり」の中心的役割を果たす(と思っているし、期待しているし、そういう役割のはず?)食のまちづくり課がイニシアチブをとって検討してみたらよいと思った。もっと言えばそのお手伝いができればよいのにと。
小浜は日本でも数少ない「Farm to chopsticks(hashi)戦略」をたてれる町だと思う。せっかく食のまちづくり条例で、食を核として各産業や地元の人だけでなく観光客(滞在者)もつなぐようなことが記載されているのだから、まさに循環型のサプライチェーンをつくっていく素地(方向性)は示されているような気がするし。
1部の紹介でかなり長くなってしまった。続いての2部3部はもう少し簡潔に。。